砂浜に描いたうたかたの夢
彼の瞳が、真っ直ぐ私を見据えている。

吸い込まれそうな真剣な眼差し。だけど、圧迫感はなく、不思議と「この人なら大丈夫」と確信している自分がいる。

もしかしたら、先程涙腺が崩壊したのは、内から滲み出る優しさに安心感を覚えたからなのかもしれない。



「私……海が見える場所で、レストランを開業するのが夢なの」



両親にも、担任の先生にも、友達にも、誰にも言えなかった夢。

長年心の奥にしまい込んでいた夢を、今、初めて人に打ち明けた。



「それは、料理が好きだから?」

「うん。物心つく頃から、食べ物に関する仕事がしたいって思ってて。あと、そこで自分が描いた絵を飾りたいんだ」



大好きな場所で、大好きなことをして、大好きな物に囲まれて生活する。

夢に夢を重ねた、無謀とも言える夢。


『人生そんな甘くない。現実見ろ』
『そもそも夢を叶える人は一握り。ほとんどの夢は叶わない』

厳しい社会で生きている人達からしてみたら、今語った夢に対してこんな感想を抱くだろう。
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