砂浜に描いたうたかたの夢
「ありがとう……」



暗闇に消えていく彼に向かってポツリと呟いた。



「一花……っ!」



その数秒後、後方で先程よりも鮮明な父の声が聞こえた。



「バカっ! なんで電話出ないんだ!」

「……酔っぱらってる人と話したくなかったから」



抑揚のない淡々とした声で返答した。

膝に手をついてゼェハァと息切れする様子から、相当走り回ったんだと見て取れる。


ここで「この呑んだくれ親父が」とか、「父親失格」とか言って、冷たく突き放すこともできるんだけど……。



「……ごめん」



謝ろうとした矢先、父が先に口を開いた。



「何も説明せず、いきなり怒鳴って、怖い思いさせて、しまいには皿までひっくり返して……本当に悪かった」



顔はまだほんのり赤いものの、呂律は正常通り。
だいぶ酔いは覚めてるみたいなので、反抗するのはやめておいた。



「……なんで怒ったの?」

「先月に、親戚が亡くなって……まだ1ヶ月しか経ってないもんだから、祝い事は控えようと話し合ってたんだ」
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