砂浜に描いたうたかたの夢
呼び寄せると恐る恐る海に入り、1人分の距離を空けて隣に座ってきた。



「凪くんって水泳部だったよね? 何泳ぎが得意なの?」

「クロール。その次はバタフライ」

「バタフライかぁ。1番難しそうなやつだっけ。どうやって泳ぐの?」

「んー、まずは潜る練習からかな。その次にキックで……形はこんな感じ」



足を揃えて波を蹴る凪くん。
ドルフィンキックというらしい。



「あの……今ここで教えてもらえることって、できる?」



水しぶきが収まり、伏せられていた目が丸く縦に開かれた。


水泳教室に通った経験はないけれど、幼い頃から運動を卒なくこなせていたため、学校の授業で平泳ぎまでは習得済み。

全部マスターするのは難しくても、キックまでならいけるかもと思ったのだ。



「俺が先生役やるの?」

「うん! ダメ、かな?」



顔を覗き込むと、気まずそうに視線を逸らされた。


都合の悪さが全面に表れているこの顔──連絡先の交換を渋っていた時と少し似ている。

今まで無茶なお願いを聞いてくれた凪くんだけど、指導は荷が重かったかな……。
< 191 / 322 >

この作品をシェア

pagetop