砂浜に描いたうたかたの夢
やってきたのは、ほんのついさっきまで話題の中心になっていた父だった。

噂をすれば影がさす、という言葉があるけれど、まさか本当に来るなんて。廊下に聞こえてたのかな……。



「クニユキ……あなた頑張ったのね……」

「は? 何を?」

「なんでもない! 料理できるのすごいねって話してただけ!」

「え、おいちょっと、俺は麦茶を……」

「後で持ってくるから!」



頼むから空気を読んで。今はそっとしておいてあげて。
そう言わんばかりに父の背中を押して台所から退出させたのだった。







誰もいない荷物部屋にて。祖父母と曾祖母に借りた全身鏡の前で首を動かし、頭部全体を確認する。

みつあみにした髪の毛をくるんとまとめた、耳下お団子ヘア。

水に濡れて崩れないよう、ポーチにあったヘアピンを全部使ってしっかり固定した。


まだ少し時間は残ってるけど、凪くんが先に到着している可能性も考えて、今日は早めに出発しよう。
< 220 / 322 >

この作品をシェア

pagetop