砂浜に描いたうたかたの夢
犬ってすごいなぁ。


怒鳴り散らしている人間に突進して全身で止めに入って。至近距離で暴言を吐かれても、次の日は何もなかったかのように駆け寄って挨拶をして。

そして今、父の思い出作りに協力してくれている。


どうしてこんなに強くて健気なんだろう。その小さな頭に乗っている手をどけて、優しく抱きしめてあげたいよ。



「一花もこれから水浴びか?」



いってきますと一言言い残して立ち去ろうとしたが、一歩踏み出したところで足止めされた。



「えっ、なんで」

「違うのか? 水着着てるからてっきり海に行くのかと」

「いや……合ってるけど」



心臓がドクンドクンと荒ぶり始め、帽子の中で冷や汗が額を伝う。


なんで知ってるの……⁉

みんながお風呂を終えた後にこっそり洗って干して、朝イチで回収したのに。水着を買ったことも、口外してないから誰も知らないはず……。



「なんだ、やっぱりそうじゃないか。でも、そんな派手なやつ持ってたっけ?」

「いや。こないだ町に行った時に買った。ご飯作り手伝ったお礼に、おばあちゃん達がお小遣いくれて」
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