砂浜に描いたうたかたの夢
耳を近づけて様子をうかがうと、ドタバタと走り回る足音に混じって唸り声が聞こえた。


これは恐らく、ワンちゃんがケージから脱走したのだろう。にしても、定番中の定番すぎる名前……。

外国産の犬が多く、付ける名前の種類も増えている現代でも、お年寄りの人にとっては『犬=ポチ』が定着してるみたい。


苦笑いしていたら、足音が近づいてきて障子が開いた。



「ただいま。はいどうぞ」

「ありがとう。大丈夫だった? さっきの、ワンちゃんの声だよね?」

「うん。鍵が最後までかかってなかったみたいで……ちょっと格闘してた」



笑顔で答える凪くんだけど、綺麗な髪の毛が乱れてボサボサになっている。


曾祖父と祖母の犬と暮らし始めて約3週間。多少は慣れてきたといえども、やっぱり1人で3匹のお世話は大変だよね。

昨日少し元気がなかったように見えたのも、疲れが溜まっていたからなのかな。お疲れ様です……。



「あら、凪くん」



心の中で労いの言葉をかけながら靴を履いていると、庭の端に大きな荷物を持った女の人が現れた。
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