砂浜に描いたうたかたの夢
おばあさんは近寄ると、愛犬が入ったバッグを下に置いて私の両手を包み込むように握った。


孫思いで素敵な人だなぁ。表情からも手のひらからも人柄が伝わってくる。

凪くんは顔立ちだけじゃなくて、性格も受け継いでいるようだ。



「あの、その子ってもしかしてワンちゃんですか?」

「ええ。あ、凪くんから話聞いてた?」

「はい。犬が3匹いると聞きました。この子は何の種類ですか?」

「日本スピッツよ。今ちょっと寝てて見えにくいんだけど、全身真っ白でふわふわしてるの。名前はね──」



おばあさんの手がバッグに伸びたその時、突如バッグがモゾモゾと動き出した。


私の声に反応して起きちゃったのかな。お休み中のところ邪魔してごめんね。


そう言わんばかりにしゃがんで顔を近づけると、キャンキャンキャン! と甲高い声が耳を貫いた。



「こらっ! シーくん! お客さんの前よ!」



叱る声が聞こえてくるけれど、耳に響くのはワンちゃんの吠える声のみ。

あまりにも大きくて、近くにいるおばあさんの声が遠くなるほど。
< 243 / 322 >

この作品をシェア

pagetop