砂浜に描いたうたかたの夢
ドアのノック音と看護師さんの声で我に返った。


点滴を外してもらっている最中、私以外にも運ばれた人がいないかを尋ねたのだけれど、返ってきたのは、やはり父と同じ答え。

智にも同じ質問をしたものの、『そんな絶世イケメン、いたら記憶に残ってるに決まってるだろ』と、一蹴されてしまった。


別室に移動すると検査が行われた。

数時間に及んだので心配していたが、早期発見だったためか、奇跡的に問題なしと診断をもらい、その日のうちに退院することができた。


伯母に車で迎えに来てもらい、帰路に就く。



「ただいまー」



引き戸を開けた父に続いて中に入ると、ドタバタと走ってくる足音が迎えにやってきた。



「一花ちゃん……!」



靴を脱いでいる途中、泣き腫らした目をした祖父と祖母、そしてジョニーまでもが玄関に集まった。



「ごめんなさいっ、約束、してたのにっ」

「いいのよ。ステーキよりも、一花ちゃんのほうが大事なんだから……っ」



頭を撫でられて、背中を擦られて、体温に包まれて。収まった涙が息を吹き返す。

鼻水が出てきたのでティッシュをもらおうとすると、ジョニーが立ち上がって抱きついてきた。
< 260 / 322 >

この作品をシェア

pagetop