砂浜に描いたうたかたの夢
恐る恐る近づきながら、少し傘を傾けて前髪をかきあげたお兄さん。

この端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気は……。



「もしかして、転んで砂まみれになった……?」

「はい。そうです。顔面から砂浜に突っ込んだ者です」



ドクンと心臓が音を立てた。

えええ……⁉ まさかの、水も滴るかっこいいお兄さん⁉

こんなに早く会えるなんて、奇跡としか言いようがないよ……!



「先日は本当にすみませんでした!」



海岸に戻り、改めて謝罪した。



「綺麗なお洋服を汚してしまって……。あの、帰りは大丈夫でしたか? 風邪、引いてませんか?」

「はい。汚れたといっても海水ですし。ピンピンしてるので大丈夫ですよ」

「良かった……」



ホッとして安堵の声を漏らした。

あの時、ちゃんとお別れの挨拶ができなかったから心配だったんだよね。



「僕のほうこそ、勝手に帰ってしまってすみませんでした。彼氏さんに何も言われてませんか?」

「え?」
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