絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
「私が合図したらこの音楽をかけてくれる?」
「了解」
誤解されないようにというのはわかっていたが、でも何かしたくてつい肩を軽く叩いた。その肩があまりにも小さくて、今にも壊れてしまいそうで信久はドキッとした。自分とは違う華奢な彼女に息をするのも忘れてしまった。
すると徳香は小さく頷き、ホッと息を吐く。
「信久のおかげで緊張が解けたみたい」
「そ、そっか。それなら良かった」
「うん、じゃあ行ってくるね」
体育館の真ん中へと小走りで行くと、徳香は立ち止まって深呼吸をする。今まで賑やかだったメンバーたちも、独特の空気を感じ取って静かになった。
「エアボールでやりますからね! ボールがあるつもりですから!」
徳香は床に膝をつくと首をそっと傾け、信久を見て頷いた。その合図を受け、信久はスマホの画面に指を触れる。
クラシックの音楽が流れ始め、徳香が滑らかに体を回しながら立ち上がった。軽やかにステップを踏み、ジャンプをする時の体のラインの美しさに信久は息を飲んだ。
これがいつもの徳香? 魅惑的な表情の中に見せる笑顔、柔軟に動く体ーーこんな徳香は見たことがなかった。
信久は思わずカメラを構える。衝動の赴くまま、呼吸も忘れてシャッターを押し続けた。
音楽が終わり、鳴り止まない拍手の音で信久はようやく我に返る。
徳香の周りをメンバーたちが囲み、中心では徳香が照れ笑いを浮かべているのが見えたが、信久はそこへは行けずにいた。
このドキドキは一体なんだ……? 息が苦しくて、胸の鼓動がおさまらない。顔が熱くて仕方ないーー信久は立ち尽くしたまま胸を手で押さえ、深呼吸を繰り返した。