絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
この気持ちって
 あの日を境に、信久の徳香へ対する感情がおかしくなってきている。

 最近は徳香を前にすると少し緊張して、心拍数が上がる気がする。それに何故か彼女を手元に置いておきたくなり、修司を見つめる徳香の横がを見て胸がざわつくようになってきた。

 徳香は誰のものでもないのに、どこかに行ってしまうのではないかと不安になる自分がいる。

 今までは同じ趣味が共有出来る友達、『一緒にいて楽しい』くらいにしか思っていなかった。それが彼女の新しい一面を知って、こんなふうに変わってしまうなんて思いもしなかった。

 信久は撮った写真をパソコンに移す作業をしながら、徳香が新体操を披露した日の写真をつい眺めてしまう。

 普段自分の前で見せる姿とは全く違う。表情は大人びていたし、彼女の醸し出す色気にドキドキした。

 あの日、自分と同じように感じた奴がいるんじゃないかと考えるだけでイラッとした。

 帰り際、徳香がTシャツを引っ張った時は息が止まるかと思った。だから彼女がそっぽを向いていてくれて助かった。あの時自分がどんな顔をしていたかわからなかったから。

 パソコンの画面には、徳香の魅惑的な表情が映し出されている。信久は思わず"印刷“の文字をクリックした。

 プリンターが動き出し、徳香の笑顔の写真が印刷される。それを見ながら、息苦しさを感じる。

『信久ってば、あの後ずっと長崎さんの写真ばっかり撮ってたから、お礼を言うタイミングを逃しちゃったよ』

 違うんだ、長崎さんを見ていたわけじゃないんだーー本当は写真を撮っていたのではなくて、徳香の写真を見返してたなんて言えなかった。

 まさかな……まさかだよなーー心に浮かんだ言葉をかき消すように、信久は写真を机の引き出しにしまうと、机の上に置いてあったスマホを手に取り、徳香とのメッセージ画面を開いた。

『今度の土曜日、一緒に出かけない?』

 土曜日を選んだのは、次の日が休みだから。そうしないと次の日の仕事に支障が出るからと、徳香は早めに帰ろうとするのだ。

 送信するとすぐに既読になる。

『いいよ。今度はどんな映画にする?』
『映画じゃなくて、レンタカーでも借りて二人で遠出はどう?』
『ドライブ? いいかも!』
『じゃあさ、映画のロケ地巡りとかは?』
『了解! 楽しみにしてるね!』

 信久は画面を見ながら照れ臭そうに笑う。

 二人きりで会って確認しよう。もしかしたら俺の勘違いかもしれないじゃないか。徳香のギャップに戸惑っただけかもしれないーーそう思いながら、苦しくなる胸をぎゅっと握り締めた。
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