絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
◇ ◇ ◇ ◇

 助手席に座る徳香は、いつにも増して上機嫌だった。お菓子をたくさん買い込み、飲み物も数本持参している。

「ドライブって久しぶりだから、ちょっと遠足気分で来ちゃった!」

 下ろした髪は緩くウェーブがかかり、パフスリーブのTシャツとのバランスが絶妙だった。

 おかしいな……電車でだって隣に座っているのに、なんだか今日は緊張してしまう。あぁ、そうか。車という個室だからかーーそんなふうに考えて、大きく息を吐いた。

「で、でもさ、幼稚園で遠足なんて行き慣れてるんじゃない?」
「それが違うの! 自分が行く側の遠足はワクワクするけど、仕事として引率するのはヒヤヒヤするの。何かあったら大変でしょ?」
「なるほど」

 窓の外を眺める徳香の顔をミラー越しに見つめる。気持ち良さそうに微笑む彼女を見ていると、誘って良かったと思えてくる。

「で、今日はどこに行く予定なの?」
「最初に足利織姫神社に行って、その後にフラワーパークに行く予定」

 すると徳香の目が輝く。

「映画ロケ地の聖地、足利⁉︎ 嬉しすぎる〜!」
「それは良かった」
「だからなかなか行く場所を教えてくれなかったんだ。すごいサプライズだもんね! 趣味が一緒だとこういうことが分かち合えるからいいよね」

 嬉しそうな徳香の顔を見れば、信久の胸が温かくなる。やっぱり徳香と一緒にいる時間は楽しい。

「飲み物くれる?」
「何がいい? コーヒー? お茶? ジュース?」
「じゃあお茶で」

 徳香はキャップの蓋を外すと、信久に手渡す。その時二人の指先が触れ合い、信久は体に電流が走ったかのような感覚に陥る。しかしそれは信久だけで、徳香は何とも感じていないようだった。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 まだ指先が熱い。ドキドキしてるのは自分だけだと思うと、厄介に思えた。
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