絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜

 届いた定食を食べながら、杏は不思議そうに口を開く。

「松重くんが私を好きだったなんて、全然気づかなかったなぁ。サークルでも写真ばっかり撮ってるし」
「……一応話しかけたりしてましたけど」
「いやいや、あれはただの社交辞令的な会話だよ。今の好きな人にはちゃんと伝わってる?」

 信久は頭を掻きながら下を向き口籠る。

「……たぶん伝わってません。この間も意を決して手を繋いだのに、まるで子どもと繋いでるくらいにしか思ってないみたいだし、しかもその後に元カレの話までされて……」
「あらま……それはお気の毒に……」
「それに彼女には今好きな人がいるんです。だから俺のことなんて眼中にないんですよ」

 信久が悲しげに微笑むのを見て、杏は頭の中で様々なピースが埋まり出していく。友達、子ども、好きな人……そして一つの答えに行き着いてハッとした。

「もしかして……松重くんが好きな人って、小野寺さん?」

 まさか徳香の名前が出ると思わなかったので、信久は顔を真っ赤に染めて、背もたれに頭を強く打ち付ける。

 その反応を見て確信したのか、杏は表情をキラキラ輝かせた。

「まさかとは思ったけど、やっぱりそうなのねぇ!」
「な、なんでわかったんですか……!」
「なんとなくよ。それに、その子には好きな人がいるんでしょ……?」

 杏が困ったように笑い、髪を耳にかける仕草をした。

「……もしかして気付いてましたか?」
「そりゃあね。見てればわかるもの。好きな人が同じなら尚更目に入るし……」

 やっぱり長崎さんも笹原さんが好きなんだ。ただその事実を知っても、ただ納得するだけで、それ以上の感情は浮かんでこなかった。

「私も彼女みたいに積極的になれたらなぁって思うの。でもそんな簡単にはいかないのよね」
「……でも彼女は長崎さんみたいになりたいって言ってましたよ。長崎さんみたいに落ち着いた女性だったら好きになってもらえるんじゃないかって」
「そうなの? でも私だって落ち着いてるわけじゃないのに……」
「そうなりたいってことは、きっとお互いの自分にはない良いところがそう見えてるんですよ」

 信久は徳香を思い浮かべる。それだけで鼓動が速くなり、頬が緩むのを感じた。
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