絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
* * * *

 映画を観ている間、二人とも隣に相手がいる事を忘れて集中していた。そのため、終わった時にお互いの顔を見て驚きの声をあげてしまった。

「ヤバい……いつも通り観ちゃった。っていうか、お互い無の境地だったよね」
「確かにね」

 もっと話したいと思ったのに、映画の間はつい黙ってしまう。徳香は思わず信久のスーツの裾を引っ張った。

「あの……良かったらもう少し話さない?」
「いいけど……小野寺さん、明日は仕事?」
「えっ、ううん、休み」

 徳香が言うと、信久は先ほどと同じように柔らかく笑う。

「なら、ちょっと飲んでく?」
「いいね、そうしよう!」

 二人はショッピングモールを出て、駅に向かう途中にある居酒屋に入る。半個室の席へと案内された二人は、向かい合うように座った。それからお互いにビールを注文し、初めての会話を乾杯で祝う。

「松重さんって、この辺りが最寄りなの?」
「そう。職場には電車で一本で行けるし、何より映画が観たいと思ったらすぐに来られるからね」
「いいなぁ。私もそうしたかったけど、この辺って家賃が高めじゃない? 幼稚園教諭のお給料じゃ無理だったから、諦めて二つ隣の駅にしたの」
「あぁ、小野寺さんって幼稚園の先生なんだ。確かにそれっぽい」

 そう言われて、徳香は頬を膨らませる。

「どうせ元気すぎるとか、落ち着きがないとか言うんでしょ? もう言われ慣れてる」
「へぇ、そうなんだ。でも子どもたちにとっては、元気で明るい先生って嬉しいんじゃない?」

 信久は顔色を変えずに淡々と呟いたが、その言葉が徳香は嬉しかった。
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