絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
◇ ◇ ◇ ◇

 信久は相変わらずジャージの上下を着て、カメラを構えて参加していた。

 サークルの掲示板に活動中の写真をアップすることを部長に頼まれていたため、一応参加しているという名目は出来た。

 とはいえ、時々徳香の方を向いては、彼女の姿を写真に収めることも忘れていなかった。

 そこへ一試合を終えた杏が戻ってきた。タオルで汗を拭いながら信久に話しかける。

「松重くん、調子はどうかな?」
「まぁぼちぼちですね」
「アプローチはうまく行った?」
「いえ、全く……。長崎さんに言われた通り、壁ドンやバックハグもしてみたんですが、全然意識してもらえません」
「……ちょ、ちょっと待って。いきなりそんなことしたの?」
「……ええ。でもリハビリって言い訳をしてますけどね」
「リハビリ?」
「恋をするのが久しぶりだから、付き合った時に恥ずかしくないように、徳香と練習したいって言いました」
「……で、小野寺さんは何て?」
「最初は断られましたけど、その後に徳香が拒否出来ないような話に持っていって、成り行きっていうか、彼女が了承するように謀りました」
「うわ……意外と策士なのね。でもあまり反応は良くないんだ?」

 信久はため息をつくと、肩を落として頷く。

「『私じゃなく長崎さんにすればいい』って言われると、結構へこむんですよね……」
「えっ? まだ私を好きなことになってるの?」
「……じゃないと徳香に警戒されそうで……。彼女に触れたくて仕方ないのに、いきなり友達が壁ドンとかしたらおかしいじゃないですか。だったら俺は長崎さんが好きってことにしておけば、徳香にとって害のない人間でいられるかなって思ったんです」
「……でもそれだと、いつまでもその関係のままだよ? 小野寺さんの彼氏になりたいんじゃないの?」
「……だったら、長崎さんも早く告白してくださいよ。そうしたら俺も勝負しに行くんで」
「……それが出来たら苦労しないって。出来ないから困っているんだし」
「まぁ……そうですよね。すみません」

 信久は撮った写真を眺める。それを杏が覗き込み、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

「本当に好きなんだねぇ。写真から気持ちがダダ漏れだよ」
「……マジですか。気をつけないと」

 頬を真っ赤に染めて顔を背けた信久を見て、杏はにっこり微笑んだ。

「ちゃんと気持ちが伝わるといいね」
「それは長崎さんもですよ」
「うん、そうだね……っていうか、どういう時に小野寺さんに触りたくなっちゃうの?」
「……内緒です」

 信久は恥ずかしそうに顔をカメラで隠す。

 どんな時とかじゃない。徳香が隣にいるだけで、俺の胸の高鳴りは止まらなくなるーーでもそんなことを言えるわけがない。

 どんなに杏の話をしたって、徳香は嫉妬してくれない。それは信久のことを完全に友達だと思っているからだって知っていた。
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