絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
持つべきものは友?
 買い物を済ませて家に向かおうとすると、信久がタクシーを停めてくれた。その優しさが嬉しくて、徳香はまた泣きそうになる。

「今日の信久、めちゃくちゃ優しい……」
「そう? いつも優しいと思うけど」

 タクシーの揺れが心地よく、徳香は信久の肩に寄りかかって寝そうになってしまう。昨夜は緊張して、なかなか寝付けなかったのだ。

「徳香の部屋まで抱えて行く自信ないから、着くまでは起きてて」
「あなたね……こんなに私が傷付いてるんだから、お姫様抱っこするくらいの甲斐性を見せなさいよ!」
「いや、それとこれとは別問題だよね」

 徳香が反論する前に家に着いてしまったため、諦めてタクシーから降りた。信久が会計を済ますのを見ながら、少し申し訳ない気持ちになる。

「ごめん。私も出す」
「いいよ、そのかわり俺が失恋した時はよろしくね」
「あはは! それなら任せて!」

 階段を昇り、徳香の部屋に入る。信久がここに来るのはもう何度目だろ。彼もまるで自分の部屋のように過ごすようになっていた。

 テーブルに買ってきたものを並べ、二人は缶をカチンと合わせる。

「……あーあ、とうとう失恋しちゃたよ……。覚悟してたけど、やっぱり辛いね……」
「でもちゃんと気持ちを伝えるって勇気のいることだよ。俺はそれが出来ない……」
「そうねぇ……でも言わなきゃ伝わらないし、終えることもできなかったから……」

 レモンサワーを口に含みながら、ゆっくり飲み込む。夕食は食べた気がしなかったから、ようやく味を感じられた。

「……笹原さん、やっぱり長崎さんが好きらしいよ」
「まぁ、そうでしょ」
「フラれるのが怖くて告白出来ないんだって」
「……俺と同じか……」
「だから、ちゃんと想いを伝えてくださいって言っちゃった……。よく考えたら信久に不利なことを言っちゃった……ごめん」
「ん? あぁ、そっか。別にいいよ。俺の場合も、なるようにしかならないし」
「……怒ってない?」
「大丈夫。むしろそれで良いとも思ってる」
「……どういうこと?」

 眉根を寄せた徳香を見て、信久は少し慌てたように顔を逸らし、枝豆を口に放り込む。

「何でもないよ。それより何か映画つけようか。こういう時は失恋物がいいのかなぁ?」
「……それって傷口に塩を塗り込むような行為じゃない?」
「じゃあ何がいいの?」
「……感動的なファミリー物で」
「また泣くんだ」
「いけない?」
「別に」

 だって涙が枯れたわけじゃない。映画を口実に、もう少し泣いていたかった。
< 78 / 133 >

この作品をシェア

pagetop