絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
「えっ……信久? なんでここにいるの……?」

 徳香はどこかホッとしたような表情で信久を見る。すると信久は徳香の背後に近寄り、椅子の背もたれに手をかけた。

 そのため、隣にいた男は気まずそうに手を引っ込める。

「まさかお店まで同じだとは思わなかったね」

 そして奥の席を指差すと、そこに座っていた男性二人が手を振っていた。

「トイレに行って戻ろうとしたら、徳香の声が聞こえたからさ」

 すると信久が徳香の頭に手を載せる。安心感から、徳香の表情が緩んだ。

「大丈夫? 飲みすぎないようにね。帰る時に声かけて」
「うん、わかった」

 その会話に気付いた雪乃が、信久の姿を見て目を見開いた。

「今のって松重さん? なんでいるの?」
「あそこで友達と飲んでるみたい」
「ふーん……」

 ずっと会話の外にいた男が、眉をひそめながら徳香を見ていた。

「今のって友達?」
「あっ、はい」
「一緒に帰るの?」
「そうですね、家が近いので」
「ねぇ、それならさ、俺が送ろうか? 遅くなっても平気だし」
「ありがとうございます。でもお気持ちだけいただきますね。あっ、私もトイレに行ってこようっと」

 徳香はカバンを持つと、まるで逃げるかのようにそそくさとトイレまで走った。

 個室に入るとようやく息を吐く。ああいう強引な人って苦手。自己中なのが癪に障る。

 偶然でも信久がいてくれて良かったーー彼が来てくれた時の安心感は、何にも代え難いものだった。

 あの席には戻りたくないなーーどうせなら信久のところに行きたい。そして出来るのなら、信久と一緒に早く帰りたいと思ってしまった。
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