天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 百合絵さんの後をついて、長い縁側を歩き、階段をあがる。
 彼女が今着ている着物を含め、相良家の着物は全て雪島家が手がけてきた。
 先ほど優弦さんが着ていた上質な着物も、うちが手がけたもので間違いない。
 雪島家はずっと相良家に与えられてばかりなのは事実で、そこに上下関係が生まれるのは無理もない。伝統的な文化を雪島家だけで守るには、あまりにも資金が足りなかったのだろう。
 文化を残す選択をしてくれた先祖のことを恨むつもりは毛頭ない。
「こちらです」
 すっと障子が開かれ、目の前に八畳ほどの和室が広がった。
 小さな行燈がひとつ置いてあるだけで、他に物は何もない。
 殺風景な部屋だと思ったけれど、逆に自分の私物をいくらでも置いてよさそうなので、安心した。
「ありがとうございます。では、暫く荷ほどきをさせて頂きます」
 と言っても、ハンドバッグに入るほどしか持ってきていないけれど。
 部屋の中に入り荷物を置いたけれど、まだ背中に視線を感じる。
 そっと振り返ると、百合絵さんが物凄い形相で私のことを睨んでいた。
「……何か」
 私はできるだけ心を落ち着けて、冷静に問いかけた。
「私が忠誠心を誓うのは、恩のある相良家の皆さまのみです」
 よほど歓迎されてないのだろう。
 忠誠心を高めるために、わざと身寄りのない女性を中心に雇い女中にしていると聞いていた。
 実際彼女たちが救われているのは事実なので、動機はどうであろうと相良家は彼女たちに貢献している。
 しかし、彼女たちが認めているのはあくまで相良家の人間。
 いきなりぽっと出でやってきた私が歓迎されないのは、当然のことだ。
「そうですか。問題ないです。身の回りのことは自分でやるつもりでしたから」
 毅然とした態度でそう答えると、百合絵さんはギッと奥歯を噛み締めた。
 きっと、何を言っても気に食わないだろうから、どうせなら嫌われてでも本音でぶつかった方がいい。
 私は「ご案内どうもありがとうございました」と言って頭を下げ、すっと障子を閉めた。
 部屋にひとりになると、私は畳の上に正座し、ふぅと一息つく。
 運命の番は本当だったこと、相良寿に明らかに見下されていたこと、この家の誰にも歓迎されていないこと。
 すべてが、自分の肩にのしかかってくる。
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