天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
夏の虫の泣き声をBGMに、私は忍び足で優弦さんの部屋へと向かっていた。
寝間着姿のまま、誰かとすれ違ってもできるだけ怪しまれないようにすました顔で周囲を警戒する。
優弦さんの部屋の障子に手をかけると、スーッと静かに障子を開けた。
月光が部屋の中に差し込んで、信じられないほど綺麗な寝顔で眠っている優弦さんの顔を照らしだす。
「幸せなご身分ですね……」
すぐに障子を閉めて、ゆらりと彼のそばへ近づく。
そっと顔を覗き込むと、優弦さんはしっかり目を閉じて微かに寝息を立てていた。
今朝の事件があってから、ずっと頭がぼうっとしている。
今日は何も飲まず食わずだったせいだろうか……。ここが現実世界じゃないみたいに感じる。
今目の前にいるのは、世界で一番憎い相良家の、完璧な御曹司。
相良家の宝である彼がいなくなれば、相良家は一気に崩壊するだろう。
私は単純な考えのまま、そっと彼の綺麗な首に手をかけた。
温かく、鼓動が伝わってくる。
憎い。憎い、憎い、憎い――。
相良家がいなければ、こんなに黒く淀んだ人間になることなどなかった。
こんなに辛く悲しい毎日を送ることはなかった。
彼らがいたから、こうなったんだ。私の不幸の上に彼らの幸せがあるんだ。
「消えてっ……」
私は、カタカタと震えた手で、ぐっと手に力を込めた。
……つもりだったけれど、一切指に力が入らなかった。
「なんでっ……」
震えた声で呟くと、大きな手に突然手首を掴まれる。
「やめた方がいい。君のおばあ様が悲しむ」
いつのまにか優弦さんは目を覚ましていて、彼は説き伏せるように落ち着いた声でそう言い放った。
「あっ……え……?」
目が合った瞬間、頭の中が白く弾けて、ようやく私は正気に戻った。
すぐに首から手を放して、後ずさりすると、どっと汗が滲み出てくる。
私今、いったい何をしようとしていたの……? 自分が恐ろしくて震えあがった。
浴衣姿の優弦さんはそっと体を起こして、怯えている私をじっと見つめている。
……何て、悲しい瞳。
なぜ、そんな顔をするの。
思い切り狼狽している私とは違い、優弦さんは落ち着いている。
それどころか、私の鎖骨付近に視線を下げて、「火傷の痕は消えたみたいですね」と、安堵したように漏らした。
どうして私の心配なんてするの。
寝間着姿のまま、誰かとすれ違ってもできるだけ怪しまれないようにすました顔で周囲を警戒する。
優弦さんの部屋の障子に手をかけると、スーッと静かに障子を開けた。
月光が部屋の中に差し込んで、信じられないほど綺麗な寝顔で眠っている優弦さんの顔を照らしだす。
「幸せなご身分ですね……」
すぐに障子を閉めて、ゆらりと彼のそばへ近づく。
そっと顔を覗き込むと、優弦さんはしっかり目を閉じて微かに寝息を立てていた。
今朝の事件があってから、ずっと頭がぼうっとしている。
今日は何も飲まず食わずだったせいだろうか……。ここが現実世界じゃないみたいに感じる。
今目の前にいるのは、世界で一番憎い相良家の、完璧な御曹司。
相良家の宝である彼がいなくなれば、相良家は一気に崩壊するだろう。
私は単純な考えのまま、そっと彼の綺麗な首に手をかけた。
温かく、鼓動が伝わってくる。
憎い。憎い、憎い、憎い――。
相良家がいなければ、こんなに黒く淀んだ人間になることなどなかった。
こんなに辛く悲しい毎日を送ることはなかった。
彼らがいたから、こうなったんだ。私の不幸の上に彼らの幸せがあるんだ。
「消えてっ……」
私は、カタカタと震えた手で、ぐっと手に力を込めた。
……つもりだったけれど、一切指に力が入らなかった。
「なんでっ……」
震えた声で呟くと、大きな手に突然手首を掴まれる。
「やめた方がいい。君のおばあ様が悲しむ」
いつのまにか優弦さんは目を覚ましていて、彼は説き伏せるように落ち着いた声でそう言い放った。
「あっ……え……?」
目が合った瞬間、頭の中が白く弾けて、ようやく私は正気に戻った。
すぐに首から手を放して、後ずさりすると、どっと汗が滲み出てくる。
私今、いったい何をしようとしていたの……? 自分が恐ろしくて震えあがった。
浴衣姿の優弦さんはそっと体を起こして、怯えている私をじっと見つめている。
……何て、悲しい瞳。
なぜ、そんな顔をするの。
思い切り狼狽している私とは違い、優弦さんは落ち着いている。
それどころか、私の鎖骨付近に視線を下げて、「火傷の痕は消えたみたいですね」と、安堵したように漏らした。
どうして私の心配なんてするの。