天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
唯一母だけは、浮かない顔で沈黙していたけれど。
訳も分からず婚約者がいること前提に人生が進み、ここまで来てしまった。
家族への反発心で、途中で恋人を作ったりもしたけれど、結局そこに愛情は生まれなかった。どうせ将来の職業も、結婚相手も決まっているという気持ちが、俺の人生をどうでもよくさせていたからだ。
――優弦。お前が立派な医師になるまで婚約者には会うな。
――強烈な遺伝子の作用で医者になる前に子を作られても困るからな。
父親の発言に、俺は反論する気も起きずに、「分かりました」と答えるだけ。
強烈な遺伝子の作用など、本当にあるのだろうか。
半信半疑のまま世莉さんの顔を写真で見たことはあったけれど、この女の子と自分の人生が交わるとは到底思えず、どこか他人事のように感じていた。
「優弦さん、大丈夫ですか? お顔色が悪いようですが……」
「すみません、少し考え事をしていました」
随分暗い顔をしていただろう。梅さんの声にハッとして、俺はすぐに固まった表情を片手で隠した。
長居しすぎた。世莉さんと鉢合わせる前に帰らなくては……。
「着物ありがとうございます。では、お体気をつけて」
「優弦さん。世莉のこと、よろしくお願いいたします……」
「え……?」
軽く会釈をして帰ろうとした俺に向かって、梅さんは急に頭を下げた。
先ほどの優しい空気感とは打って変わって、真剣な様子で。
「あの子は、若いうちに両親を亡くして、寂しい思いをたくさんしてきました。できる限り私がずっとそばにいてあげたいですが、もうこんな年寄ですから……」
「梅さん……」
彼女の切実な思いが伝わってきて、思わず同調してしまい胸が苦しくなった。
医療に携わる身として覚悟はしているけれど、人の命が消えるのは本当に一瞬のことだ。
世莉さんのご両親が亡くなったと聞いたときは、直接会ったことのない世莉さんのことが心配になったのを覚えている。
「本当は、こんなしきたりにあの子を巻き込むことに、私と娘たちは最後まで反対しておりました」
その言葉に、俺は思わず押し黙る。父親が脅すくらいの勢いで、かなり強引に話を進めたと知っているから。
申し訳ない気持ちでぎゅっと拳を握り締めると、梅さんがそんな俺の手を手で包み込んだ。
訳も分からず婚約者がいること前提に人生が進み、ここまで来てしまった。
家族への反発心で、途中で恋人を作ったりもしたけれど、結局そこに愛情は生まれなかった。どうせ将来の職業も、結婚相手も決まっているという気持ちが、俺の人生をどうでもよくさせていたからだ。
――優弦。お前が立派な医師になるまで婚約者には会うな。
――強烈な遺伝子の作用で医者になる前に子を作られても困るからな。
父親の発言に、俺は反論する気も起きずに、「分かりました」と答えるだけ。
強烈な遺伝子の作用など、本当にあるのだろうか。
半信半疑のまま世莉さんの顔を写真で見たことはあったけれど、この女の子と自分の人生が交わるとは到底思えず、どこか他人事のように感じていた。
「優弦さん、大丈夫ですか? お顔色が悪いようですが……」
「すみません、少し考え事をしていました」
随分暗い顔をしていただろう。梅さんの声にハッとして、俺はすぐに固まった表情を片手で隠した。
長居しすぎた。世莉さんと鉢合わせる前に帰らなくては……。
「着物ありがとうございます。では、お体気をつけて」
「優弦さん。世莉のこと、よろしくお願いいたします……」
「え……?」
軽く会釈をして帰ろうとした俺に向かって、梅さんは急に頭を下げた。
先ほどの優しい空気感とは打って変わって、真剣な様子で。
「あの子は、若いうちに両親を亡くして、寂しい思いをたくさんしてきました。できる限り私がずっとそばにいてあげたいですが、もうこんな年寄ですから……」
「梅さん……」
彼女の切実な思いが伝わってきて、思わず同調してしまい胸が苦しくなった。
医療に携わる身として覚悟はしているけれど、人の命が消えるのは本当に一瞬のことだ。
世莉さんのご両親が亡くなったと聞いたときは、直接会ったことのない世莉さんのことが心配になったのを覚えている。
「本当は、こんなしきたりにあの子を巻き込むことに、私と娘たちは最後まで反対しておりました」
その言葉に、俺は思わず押し黙る。父親が脅すくらいの勢いで、かなり強引に話を進めたと知っているから。
申し訳ない気持ちでぎゅっと拳を握り締めると、梅さんがそんな俺の手を手で包み込んだ。