天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
「でも、あなたに直接会って安心しました。あなたなら、世莉の孤独を埋めてくれると感じました」
「え……?」
「長いこと生きていますから。優しい人は目を見たら分かるんです」
そう言い切って、目を細め目尻にしわを作る梅さん。
まさかそんなことを言われると思っていなかった俺は、その場に硬直した。
俺が、優しい人間……?
そんなこと、生きてきて一度も言われたことがない。
冷徹だ、心がない、人を愛せない……過去の恋人に言われた言葉が、頭の中を駆け巡る。
「それは……買い被りすぎですよ。俺は何ない人間ですから……」
低い声で返すも、梅さんは笑顔を崩さない。
動揺を悟られないように俺は再び会釈をして、今度こそ雪島家をあとにした。
――あなたなら、世莉の孤独を埋めてくれると感じました。
そんなこと、あるわけない。俺のような人間に、人を愛する力があるとは思えない。
あんなに優しい笑顔を向けてくれた梅さんのお孫さんを、幸せにすることができなかったら、俺は……。
俯きながら歩いていると、急に向かい風が吹いたので、俺は風で暴れる長い前髪をどかした。
すると、前方からブレザー姿のすらっとした女子高生が歩いてきたのが見えた。
胸元まである長い黒髪を風に靡かせて、どこか厭世的な空気を纏っている彼女を見た瞬間――、勝手に心臓がドクンと大きく跳ねた。
彼女が雪島世莉さんであることは、火を見るよりも明らかだった。
彼女の顔がよく見えていなくても、彼女が婚約者であると、心臓が激しく教えている。
世莉さんはこっちに気づくことなく俺の横を通り過ぎ、雪島家の邸宅へと戻っていった。
「これが……」
これが、父親が良く言っていた、遺伝子の作用というものなのだろうか。
俺は案外冷静に、そのことを受け止めていた。
自分の感情に関係なく体が反応するなんて、正直言って気分のいいものではない。
もちろん恋愛感情など沸き起こるはずもなく、俺の心の中には、世莉の暗い瞳だけが残っていた。
自分ばかりつまらない人生を歩まされていると思っていたけれど、彼女もまた、決められたレールの上を歩かされているのだ。
婚約者に初めて抱いた感情は――深い深い、“同情”だった。
それから俺は研修医になり、世莉さんのことなど考える暇もないほど忙しい日々を送っていた。
「え……?」
「長いこと生きていますから。優しい人は目を見たら分かるんです」
そう言い切って、目を細め目尻にしわを作る梅さん。
まさかそんなことを言われると思っていなかった俺は、その場に硬直した。
俺が、優しい人間……?
そんなこと、生きてきて一度も言われたことがない。
冷徹だ、心がない、人を愛せない……過去の恋人に言われた言葉が、頭の中を駆け巡る。
「それは……買い被りすぎですよ。俺は何ない人間ですから……」
低い声で返すも、梅さんは笑顔を崩さない。
動揺を悟られないように俺は再び会釈をして、今度こそ雪島家をあとにした。
――あなたなら、世莉の孤独を埋めてくれると感じました。
そんなこと、あるわけない。俺のような人間に、人を愛する力があるとは思えない。
あんなに優しい笑顔を向けてくれた梅さんのお孫さんを、幸せにすることができなかったら、俺は……。
俯きながら歩いていると、急に向かい風が吹いたので、俺は風で暴れる長い前髪をどかした。
すると、前方からブレザー姿のすらっとした女子高生が歩いてきたのが見えた。
胸元まである長い黒髪を風に靡かせて、どこか厭世的な空気を纏っている彼女を見た瞬間――、勝手に心臓がドクンと大きく跳ねた。
彼女が雪島世莉さんであることは、火を見るよりも明らかだった。
彼女の顔がよく見えていなくても、彼女が婚約者であると、心臓が激しく教えている。
世莉さんはこっちに気づくことなく俺の横を通り過ぎ、雪島家の邸宅へと戻っていった。
「これが……」
これが、父親が良く言っていた、遺伝子の作用というものなのだろうか。
俺は案外冷静に、そのことを受け止めていた。
自分の感情に関係なく体が反応するなんて、正直言って気分のいいものではない。
もちろん恋愛感情など沸き起こるはずもなく、俺の心の中には、世莉の暗い瞳だけが残っていた。
自分ばかりつまらない人生を歩まされていると思っていたけれど、彼女もまた、決められたレールの上を歩かされているのだ。
婚約者に初めて抱いた感情は――深い深い、“同情”だった。
それから俺は研修医になり、世莉さんのことなど考える暇もないほど忙しい日々を送っていた。