天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
しかしそこには、衝撃的なニュースが綴られていた。
【大変申し訳ございませんが、女優の強い希望で、雪島さんには衣装担当を降りてもらうことになりました。この度はご尽力頂き誠にありがとうございました。ご請求につきましては……】
「え……?」
 いったいどういうことなのか、さっぱり分からない。
 納得がいなかった私は、すぐにプロデューサーである長野(ながの)さんの番号を検索し、直接電話をかける。意外にも2コールで電話は繋がった。
「長野さん、メール拝読しました。これはいったい……」
『いやー、雪島さん。申し訳ございません……せっかく最高の仕上がりにしてくださったのに……』
 かなりバツが悪そうな声で勢いよく謝られ、私はぐっと感情を抑える。
 きっと長野さんにもどうしようもないことだったのだろうけれど、納得がいかない。
 だってあの十二単は、これ以上ないほどの出来だったはずだから。
 それは現場の人にも認めてもらえていると思ったのに……。
「理由を教えていただけませんか。今後の参考にしたいのです」
『やー、ちょっとそれは……ほんと申し訳ない……』
「長野さん。私は理由を聞くまで降りることはできません」
 私の真剣な声に、長野さんは電話の向こうで押し黙ってしまった。
 だけど、私もこんなあっさりとは引き下がれない。
 何か女優さんが満足できなかった点があるのなら、次に活かしたい。
『雪島さん、優弦と結婚されているんですよね……?』
「え……、それが何か……?」
 どうしてここで相良家の話が出てくるのだろう。
 不穏な気配を感じながら、私は必死に耳を傾ける。
『じつは小田島さくらは大きな財閥の娘さんで……。相良家に嫁いだ雪島さんのお話を知っていたんですよ』
「え……」
『それで、オメガ型の人間が作った着物なんか着れないと騒ぎ始めまして……。小田島さくら自身もアルファ型だから、強いこだわりがあるみたいでね……いやーいますよねたまに』
「わ、私が、オメガだからですか……?」
『十二単は何とか説得してこのまま着てもらうことになったんですけど、これからの衣装は別の人に依頼してほしいって言われちゃったんですよ』
 ガラガラと、何かが音を立てて胸の中で崩れ落ちていく。
 ショックで頭の中が真っ白になって、すぐに言葉が出てこない。
< 54 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop