天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 俺と世莉さんは、人生のうちで見つけられることは殆ど奇跡と言われるほどの、運命の番同士らしい。遺伝子的相性が百%だと、子の能力に大きく関係してくると、本には書かれている。
 俺は外科医としての勉強に専念しようと、あえてバース性の勉強は避けてきた。
 でもそれはただの言い訳で、心の奥底では、遺伝子で命に優劣をつけるようなことを、したくなかったからだ。
 たしかに相性によって体に影響があることは認めざるをえないが、だからと言って、感情を置き去りにして結婚することを推奨したくはない。
 アルファ型の方が優れているという考えが世に広まることは、恐怖だと思った。
 その差別的な考えがこの本から滲み出ているのを感じて、俺はバン!と強めに本を閉じて頭を抱える。
 今は研修医の身で何もできていないけれど、いずれこの考えをひっくり返してやる。
 そう思ったとき、ふと頭の中に、着物を眺めて生き生きとしている世莉さんの顔が浮かんだ。
 写真でしか見たことがないのに、どうしてこんなにも頭にこびりついているのだろう。
 あの表情を守るためには……、今のままではダメだ。
 それだけは、はっきりと分かっていた。
「相良先生! 急患です!」
 突然、血相を変えて看護師が事務室に入ってきた。
 俺は瞬時に立ち上がり、「助手として参加します」と言ってすぐに白衣を着た。
 チラッと時計を見ると、夜の二十四時を回っている。
 深夜帯は医師二人と看護師四人で全てに対応するため手薄になる。だから、人手が足りているか激しく不安だ……。何科の患者かをはやく知りたい。
 俺は看護師に案内されるがまま、手術室へと向かった。
「おばあちゃま! おばあちゃまあああ……っ!」
 途端、泣き叫ぶような声が聞こえてきて、胸が軋んだ。
 寝間着姿のひとりの女の子が、ストレッチャーで運ばれているおばあさんの手を握って、ボロボロと涙をこぼしている。
 胸を痛めながらその様子を見ていると、俺はあることに気づきその場に停止した。
「世莉さん……?」
 あれは間違いなく、婚約者である世莉さんだ。
 ということは、今運ばれているおばあさんは……。
「梅さん‼」
 すぐに事態に気づき、俺はストレッチャーで運ばれている梅さんの元に走って駆け寄ろうとした。
 この世でたったひとりの、世莉さんの大切な家族。
 何があっても、助けてあげたい。
< 59 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop