天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
号泣している世莉さんを見たら、今にも胸が張り裂ける思いになった。
――しかし、そんな俺の前に、突如大きな背中が現れ、誰かが立ちふさがった。
「急患はどこだ‼」
野太く、少し掠れた声。
声の主は、まごうことなき自分の父親だった。
彼は血相を変えて現場に現れ、梅さんの元へ駆け寄った――と思いきや、その横を通り抜けた。
「え……?」
二台目の救急車が到着していたことに、今気づいた。
ストレッチャーで新たに院内に運ばれてきた男性患者の元へ、父親は一直線で向かうと、周りにいるスタッフにキツく指示を出し始めた。
「こっちが先だ‼」
廊下で茫然と突っ立っている俺を見つけた父親は、信じられない一言を言い放った。
あまりの衝撃に、何も言葉が入ってこなくなる。
こっちが先……? いったい、どういう判断で……?
父親は梅さんのことを見てすらいないというのに、なぜそんな判断ができたのだ。もし緊急度が明らかに違ったのだとしても、世莉さんの前であんな風に言うなどありえないこと。
あんなに血相を変えた父親はめったに見られないので、自分の中で最悪の考えが浮かんできた。
もしかして、〝バース性〟で判断したのか……?
最悪の考えが過り、すぐに世莉さんに視線を向けると、彼女は完全に瞳から光をなくし、絶望しきった顔をしていた。
誰がどんな言葉をかけても、今の彼女には何も届かないだろうと、思うほど。
その顔を見て、ふつふつと抑えきれない怒りが沸いてきた。
「雪島さん、すぐにもう一人の医師が来ますから!」
看護師が世莉さんにそう呼びかけて、何とかその場を保とうとしている。
彼女は空っぽの表情のまま、梅さんを見てぼろぼろと涙を流す。
「優弦‼ お前はこっちの助手につきなさい!!」
怒鳴り声に近い声で呼ばれ、俺の怒りのボルテージは上限に達した。
けれど、俺は今、研修医の身だ。院長である父親の言葉に従うことしかできない。
運ばれてきたもうひとりの患者さんの命も、もちろん等しく大事だ。
今の俺に、ほかの選択肢はひとつもない。
「くっ……」
ぎりっと、爪が食い込むほど拳を握りしめて、何とか感情を抑えようとした。
俺は俯いている世莉に頭を下げて、悲痛の思いでその場をあとにしたのだ。
心臓が破れそうなほど、やりきれない思いだった。
――しかし、そんな俺の前に、突如大きな背中が現れ、誰かが立ちふさがった。
「急患はどこだ‼」
野太く、少し掠れた声。
声の主は、まごうことなき自分の父親だった。
彼は血相を変えて現場に現れ、梅さんの元へ駆け寄った――と思いきや、その横を通り抜けた。
「え……?」
二台目の救急車が到着していたことに、今気づいた。
ストレッチャーで新たに院内に運ばれてきた男性患者の元へ、父親は一直線で向かうと、周りにいるスタッフにキツく指示を出し始めた。
「こっちが先だ‼」
廊下で茫然と突っ立っている俺を見つけた父親は、信じられない一言を言い放った。
あまりの衝撃に、何も言葉が入ってこなくなる。
こっちが先……? いったい、どういう判断で……?
父親は梅さんのことを見てすらいないというのに、なぜそんな判断ができたのだ。もし緊急度が明らかに違ったのだとしても、世莉さんの前であんな風に言うなどありえないこと。
あんなに血相を変えた父親はめったに見られないので、自分の中で最悪の考えが浮かんできた。
もしかして、〝バース性〟で判断したのか……?
最悪の考えが過り、すぐに世莉さんに視線を向けると、彼女は完全に瞳から光をなくし、絶望しきった顔をしていた。
誰がどんな言葉をかけても、今の彼女には何も届かないだろうと、思うほど。
その顔を見て、ふつふつと抑えきれない怒りが沸いてきた。
「雪島さん、すぐにもう一人の医師が来ますから!」
看護師が世莉さんにそう呼びかけて、何とかその場を保とうとしている。
彼女は空っぽの表情のまま、梅さんを見てぼろぼろと涙を流す。
「優弦‼ お前はこっちの助手につきなさい!!」
怒鳴り声に近い声で呼ばれ、俺の怒りのボルテージは上限に達した。
けれど、俺は今、研修医の身だ。院長である父親の言葉に従うことしかできない。
運ばれてきたもうひとりの患者さんの命も、もちろん等しく大事だ。
今の俺に、ほかの選択肢はひとつもない。
「くっ……」
ぎりっと、爪が食い込むほど拳を握りしめて、何とか感情を抑えようとした。
俺は俯いている世莉に頭を下げて、悲痛の思いでその場をあとにしたのだ。
心臓が破れそうなほど、やりきれない思いだった。