天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 突然の熱に耐えられず、がくっとそのまま倒れそうになった。
「危ない!」
 地面に膝が付く直前で、優弦さんに抱き留められた。
 はからずも抱き合ったその瞬間、さらに心臓が激しく鼓動した。 
「あっ……」
「無理に動かない方がいい。落ち着いて、深呼吸して」
 言われたとおりに、深く息を吸って吐いてみる。
 それを何度か繰り返すと徐々に呼吸が整って、視界がクリアになってきた。
 モデルのような体型で、難なく上質な着物を着こなしている彼が、不安げな瞳で私を見つめている。
 少し長めの前髪からのぞく瞳は切れ長で、肌は雪原のように白く滑らかだ。
 すっと通った鼻は日本人離れした高さで、形の整った唇はどこか色気がある。
 私を受け止める腕は逞しく、中性的な美しさとのギャップを感じた。
 今までの人生で見た男性の中で、一番美しいと思った。
 熱に浮かされたせいでしばらくぼうっとしてしまったけれど、私はすぐに正気に戻り、自分の足の力でしっかりと立ってみせる。
 そうして優弦さんと距離を取り、私は何とか鼓動を落ち着かせるよう努めた。
「……君が、雪島世莉さんだね。相良優弦です」
「はい……。存じております」
 美しい人の真顔は、どうしてこんなにも感情が読み取れないのだろう。
 何とか怯むことなく冷静に答えたけれど、今自分がどんな表情をしているのか全く想像がつかない。
 それよりも、さっきの急な発熱は、いったい……。
 私の動揺を悟ったのか、優弦さんは「もう体は大丈夫ですか」と冷静に訊いてきた。
「〝運命の番〟は一目で分かるとは聞いていたけれど……これほどとは思わなかった」
 運命の番、という言葉に、ビクッと肩を震わせる。
 そんなもの絶対にありえないと否定し続けていたけれど、突然の体調変化の説明がつかない。
 それでも、私は認めたくなかった。
「そんなもの……ありえません! い、遺伝子が反応するなんて……っ」
「君と目が合った瞬間、心臓が爆ぜるような感覚になった」
「え……」
「君も、同じような感覚になったはずだ」
 眉ひとつ動かさずに、優弦さんはそう言い切った。
 私は否定することもできずに、ぐっと言葉を飲み込む。すべて真実だったから。
 それでも受け入れ難い気持ちでいると、そんな私を落ち着かせるように、彼は「問い詰めるつもりはない」と少し柔らかい声で付け足した。
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