天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
「ひとまず、中へどうぞ。温かいお茶でも飲んだら、もっと落ち着くでしょう」
「ありがとう、ございます……」
遺伝子レベルで人に惹かれる感覚に戸惑いを隠せないまま、私は優弦さんに案内されて家の中へ足を踏み入れた。
受け入れがたいけれど、優弦さんと目が合った瞬間動悸が激しくなったのは、私の体に起こった事実だ。
運命の番は、本当に存在したのだ――。
そしてその相手は、相良優弦で間違いなかった。
裏付けられた真実は、私の心を激しく動揺させ、揺さぶった。
広い玄関から中に入り、障子を開けると、すぐに一続きになった和室が現れた。
美しい中庭が左手から一望できるデザインになっており、檜とい草の香りが漂っている。
飾り棚には立派なお花が活けられており、和室に彩りを与えていた。
重厚感あふれる長机の一番奥の席に、紺色の着物姿の気難しそうな男性が座っていることに気づき、緊張が走る。
私の恨みの根源である、相良病院の院長――相良寿(ひさし)だ。
八年前のあの日から、この人の顔を忘れたことなど、一度もない。
病院の公式サイトで彼の顔写真を見ては、恨みの火を強めていたのだから。
「よく来たな。こっちに座りなさい」
低い声で呼ばれ、優弦さんに促されながら、机を挟んだ目の前の席に座る。
白髪の短髪に、日に焼けた肌。深く刻まれた額の皺。こうして正面から旦那様のことを見ると、怒りで拳が震えそうになった。
私欲で命の選別をしたこの人を、私は何があっても許さない。
何とか怒りをあらわにしないように必死に抑えながら、私は唇を噛み締めた。
「雪島世莉君。君には、今日から相良家に嫁いでもらう。我々の先祖の約束を守るためにもね」
「はい。約束のことは存じております」
「古いしきたりだと思っているかもしれないが、相良家は雪島家に膨大な支援を行ってきた。その支援がなければ、雪島家の家業はとうに潰えていた。勘違いはしないでほしいが、我々は恩を売ったわけではない。これは〝取引〟だ」
「はい……。弁えております」
私はそっと三つ指をついて深く頭を下げる。
優弦さんはすぐに私の背中をトンと叩いて、「そんなことはしなくていい」と言ったが、私は忠誠心をわざと見せるために、土下座をやめなかった。
旦那様が建前として「顔をあげなさい」と言ってきたので、私はゆっくりと顔をあげる。
「ありがとう、ございます……」
遺伝子レベルで人に惹かれる感覚に戸惑いを隠せないまま、私は優弦さんに案内されて家の中へ足を踏み入れた。
受け入れがたいけれど、優弦さんと目が合った瞬間動悸が激しくなったのは、私の体に起こった事実だ。
運命の番は、本当に存在したのだ――。
そしてその相手は、相良優弦で間違いなかった。
裏付けられた真実は、私の心を激しく動揺させ、揺さぶった。
広い玄関から中に入り、障子を開けると、すぐに一続きになった和室が現れた。
美しい中庭が左手から一望できるデザインになっており、檜とい草の香りが漂っている。
飾り棚には立派なお花が活けられており、和室に彩りを与えていた。
重厚感あふれる長机の一番奥の席に、紺色の着物姿の気難しそうな男性が座っていることに気づき、緊張が走る。
私の恨みの根源である、相良病院の院長――相良寿(ひさし)だ。
八年前のあの日から、この人の顔を忘れたことなど、一度もない。
病院の公式サイトで彼の顔写真を見ては、恨みの火を強めていたのだから。
「よく来たな。こっちに座りなさい」
低い声で呼ばれ、優弦さんに促されながら、机を挟んだ目の前の席に座る。
白髪の短髪に、日に焼けた肌。深く刻まれた額の皺。こうして正面から旦那様のことを見ると、怒りで拳が震えそうになった。
私欲で命の選別をしたこの人を、私は何があっても許さない。
何とか怒りをあらわにしないように必死に抑えながら、私は唇を噛み締めた。
「雪島世莉君。君には、今日から相良家に嫁いでもらう。我々の先祖の約束を守るためにもね」
「はい。約束のことは存じております」
「古いしきたりだと思っているかもしれないが、相良家は雪島家に膨大な支援を行ってきた。その支援がなければ、雪島家の家業はとうに潰えていた。勘違いはしないでほしいが、我々は恩を売ったわけではない。これは〝取引〟だ」
「はい……。弁えております」
私はそっと三つ指をついて深く頭を下げる。
優弦さんはすぐに私の背中をトンと叩いて、「そんなことはしなくていい」と言ったが、私は忠誠心をわざと見せるために、土下座をやめなかった。
旦那様が建前として「顔をあげなさい」と言ってきたので、私はゆっくりと顔をあげる。