天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 考えが全くまとまらず、緊張でただ喉が渇いていく。
「お義母様、私は……」
 ドクンドクンと、心臓が激しく鼓動している。
 お義母様も、旦那様の考えには辟易しているの?
 優弦さんとお義母様は同じ考えの持ち主で、味方だと思っていいの?
 今、何て答えることが正解?
 もしかして、今言っていることは私を探るための何かの罠?
 ここで回答を間違ったら、復讐を実行する前に追い出されてしまう…?
 動揺と疑心と困惑と全てが入り交ざって、感情がぐちゃぐちゃだ。
 ……だけど、意外にも私が今一番訊きたいことは、たったひとつだった。
「私は、優弦さんを、信じてもよいのでしょうか……」
 今、私は、どんな顔をしているのだろう。
 降りしきる雨の中、私の心からの言葉は、震えていた。
 ずっと、ずっとずっとひとりで戦ってきた。孤独だった。味方などいないと思っていた。
 だけど本当は、誰かを信じてみたかった。
 そういう感情を、思い出してみたかった。
 もう何かをひとりで背負い続けるには……、限界だった。
 こんなことを、どうしてまだ数回しか話したことのないお義母様に、打ち明けてしまっているのだろう。敵か味方かも分からないというのに。
 彼女もきっと困っている。息子を信じていいのかなんて聞かれて、困らない母親はいない。それに、信じる信じないなんて、自分の判断ですることだ。
 今まで優弦さんにしてもらったことが、ただの優しさであることなんて、本当はとっくに気づいていた。
 でも、誰かに、信じていいと言ってもらえないと、私はここから先、前に進めない。
「それは、世莉さんが決めることです」
 しばしの沈黙の後、もっともな言葉が返ってきた。
 幼稚な質問をしてしまったと、すぐに恥ずかしい気持ちになったけれど、お義母様の表情は想像以上に優しかった。
「でも、優弦は毎年この日、花を持って必ず早朝に家を出ていきます」
「え……」
「七年前から、かかさず……」
 それだけ言い残すと、お義母様はすっと立ち上がり静かに頭を下げた。
 「大切なお時間にお邪魔しました」と言って、お付きの人と一緒に静かに離れていく。
 残された私は、傘を持ったまま茫然と先に供えられていた花を見つめていた。
「これを、毎年優弦さんが……?」
 ずっと、いったい誰が供えてくれているのか疑問だった。
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