天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 どんなに朝早くに行っても、私より先に供えられているお花たち。
 草むしりも綺麗に終えられていて、家族の誰かによっぽど親交の深い人がいたのかと不思議に思っていた。
 でもその人物は、ずっと恨み続けていた優弦さんだったというの……?
 彼は、毎年毎年、ひとりでここへ来て、墓前で何を思ったのか。
 想像しても、彼の気持ちはちっとも分からない。
 恐る恐る、彼が持ってきてくれた花に、触れてみる。
すると、まるで彼の葛藤が流れ込んでくるかのような感覚になった。
――私は、優弦さんを、信じてもよいのでしょうか……。
 あれは、私の、ほとんど願いみたいな問いかけだった。
 心の奥底では、復讐心だけで生きていく私を、誰かに止めてほしいと、願っていたのかもしれない。
 自分でも気づいていなかった感情が、雨に洗われて、浮き彫りになっていく。
「優弦さん……」
 彼の名をつぶやくと、なぜかふと、旦那様が執筆した本のことが浮かんできた。
 恨みを感じるほど、無残に引き裂かれていたあの本。
 ……あれを引き裂いたのは、間違いなく優弦さんだ。
 なぜか今、確信をもってそう思えた。
 それに気づいた途端――どうしてか、今すぐ彼に会いたいと思ってしまった。

 茫然としたまま電車を乗り継ぐと、あっという間に自宅についた。
 間違いなくこの辺りでは一番大きなお屋敷に戻ることには、もうすっかり慣れ、手際よくセキュリティを解除して、大きな門扉を開けて中に入る。
 すると、駐車場に見慣れない高級車が止まっていることに気づいた。
 来客だろうか……? 
 サングラスをした運転手が車中にいる。
 不思議に思いながらも玄関に向かうと、丁度お客さんが中にあがろうとしている場面に遭遇した。
「ああ、丁度いいところに」
 玄関前で私を呼び寄せたのは――久しく会話すらしていなかった旦那様だった。
 彼の顔を見た瞬間、憎しみの気持ちが沸き起こり、ゾワゾワッと全身に鳥肌が立っていく。
 優弦さんのことで心が揺らいでも、旦那様に対する恨みの感情は、いまだ一切薄まってなどいないことに心底ほっとしていた。
 こんな昼間に家にいるなんて……、今日は彼らの接待だったのだろうか。
 沸き起こる憎悪を何とか落ち着けながら、静かに彼らに歩み寄る。
「彼女が優弦の妻で、雪島家の長女です」
「まあ、初めまして……」
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