天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
「君が雪島家の待望の長女でしたか。お会いしたかった」
 白いワンピースを身に纏った黒髪のお嬢様と、白髪でスーツ姿の男性が、私ににこやかな笑みを向けてきた。
 でも、瞳は笑っていない。笑顔の奥で私のことを見定めているかのような視線を感じる。
 嫌な気分になりながらも、私はぺこっと頭を下げた。
「木島財閥の社長とその娘さんだ。挨拶しなさい」
「雪島世莉です。よろしくお願いいたします」
 木島財閥と聞いて、体がピクッと反応した。
 たしか、元々優弦さんと結婚する予定だった許嫁だと百合絵さんが言っていたような……。
 それを思い出して、今の私に向けられている好奇の目にも納得がいった。
「まあまあ、中へどうぞ。世莉さん、百合絵に指示をよろしく」
「はい、承知いたしました」
 二人を客間に招き入れると、私は百合絵さんの元に向かった。
 今日はこのあと着物を縫う予定だったけれど、仕方がない……。一緒にお茶をしないといけない空気からは逃げられないだろう。
 自分のタイミングの悪さを恨みながら、半分諦めの気持ちで台所へ向かうと、百合絵さんはすでに手際よくお茶の準備をしてくれていた。
「さすがですね。ありがとうございます」
 そう言うと、百合絵さんとほかの女中はびっくりした顔でこっちを向き直った。
 彼女たちとまともに会話をするのはかなり久々だったので、驚かせてしまったのだろう。
 気にせずお茶請けの準備を手伝おうとすると、「とんでもないです」と言って遮られた。
「私達がお持ちしますので、奥様は戻られてください」
 百合絵さんは焦った様子で、私の行動を制した。
 こんな風に面と向かって奥様と呼ばれたことは初めてだったので、少しこそばゆい。
 私は彼女たちの邪魔になってはいけないと思い、仕方なく部屋を出ることにした。
「皆さん、ありがとう。では、よろしくお願いします」
 深々とお辞儀をして去ろうとしたけれど、なぜか部屋の中がしんと静まり返っていることに気づいた。
 女中たちが、なぜか心苦しそうな顔で立ち尽くしている。
 何か言いたいことがあるのかと思い待っていると、百合絵さんが口を開いた。
「奥様……。ずっとお伝え出来ずに申し訳ございません。改めまして、私達を残してくださりありがとうございます……」
「え……」
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