天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 どこもかしこも障子の扉なので、正直この家にはプライベートというものがない。
 旦那様の声も特別大きいので、嫌でも耳に入ってしまう。
「本来は木島さんのお嬢さんと優弦がぴったりだと思っていたんですがね……」
「いやー、私も正直、優弦君と結婚してほしかったなんていまだに思っていますよ。娘もすっかり惚れこんでいましたから……」
「ちょっと、お父様やめて」
 何とあけすけな話題だろう。
 楽し気な会話に、完全に入るタイミングを失ってしまう。
 隣にいる百合絵さんは、かなりムッとした顔をして障子を睨んでいる。
「奥様……」
 怒りを含んだ小さな声で私を呼び、どうしますかと訴えかけてくる百合絵さんに、私も苦笑を返す。
 むしろわざと聞かせようとしているのかと思うほど、下品な笑いだ。
 「会話が落ち着いてからにしましょう」と小声で伝えて、私達はバレないように身を潜めた。
「優弦様はとても素敵な方ですから……。私以外の方々も皆狙っていましたわ」
「優弦君が婚約相手に決まった時、娘は飛び跳ねて喜んでいましたよ。まだ小学生の頃の話でしたけど……ははは」
「もう、そんな昔の話を……お恥ずかしい」
 なるほど。優弦さんがとんでもなくモテてきたことだけは分かった。
 まあ、そんなことは言われなくとも十分に想像できることだけれど……。
 そんな中生まれてしまった私が、二人の仲を引き裂いてしまったというわけか。ただ女として雪島家に生まれてきたというだけで。
「正直私も、木島お嬢さんにお嫁さんに来てほしかったですよ。お恥ずかしいことに、うちの嫁は学歴も家柄も木島お嬢さんの足元にも及びませんから……」
「まあ、そんな……。雪島家は伝統ある家ですから」
「古い着物を縫っているだけの家です。うちの資金援助がなければとっくに仕事が無くなっていたでしょう」
 隣にいる百合絵さんが、ギリッと奥歯を噛みしめ明らかに怒りを剥き出しにしている。
 一方で私は、とても冷静な気持ちでいた。
 旦那様がそんな風に私を見下していることなどとっくに知っていたし、何も意外ではなかったから。
「百合絵さん、大丈夫……?」
「え……?」
「主の知らなくていい一面を、知らせてしまったわね」
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