天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
「簡単に許されると思うなよ……。二度と表に出られない様にしてやろう」
「ひ、ひぃ……! 申し訳ございません……!」
「優弦さん!」
 このことで、もし優弦さんの立場に何かあってはならないと思い、私は優弦さんの行動を制した。
 私の声に、優弦さんは少し正気に戻るも、怒りの火は消えていない。
「も、申し訳ございません……! 相良さんの奥様だとはつゆ知らず……!」
「もっとマシな言い訳をしたらどうですか……内田誠さん」
「い、いえ、その……」
「このことは、内田院長によくよく伝えておきます」
「そ、それだけは……!」
 縋るような声をあげる内田さんを睨みつけて、優弦さんは「二度とうちに関わらないでいただきたい」と言い捨てた。そして、勢いよく内田さんの手を振り払う。
 内田さんは痛めた手首を押さえながら、情けないほどぺこぺこと頭を下げて、会場の中へと戻っていった。
 唖然としながらその様子を眺めていると、突然視界がぐるっと変わり、足が宙に浮いた。
「えっ、優弦さん……⁉」
「ゲストルームで手当をしよう」
「ど、どこも怪我してないです! 大丈夫ですから……!」
 突然お姫様抱っこをされて慌てて制すも、優弦さんは全く聞いてくれない。
 そのまま階段を上がり、二階にあるゲストルーム――と言っても、豪華な宿泊室に運ばれてしまい、キングサイズのベッドの上に優しく寝かされた。
 優弦さんは、思い切り戸惑っている私の顔をそっと撫でて、苦しそうに眉を顰めた。
「すまない。俺がずっとそばにいればこんなことには……」
「優弦さん、大丈夫です。何もされていないですから」
「怖かっただろう」
 そう言って、私を見下ろしながら優しく手首を包み込んでくる優弦さん。
 内田さんに思い切り掴まれたせいで、赤く腫れていたのかもしれない。それでも、我慢できないような痛みではない。
 あまりに優弦さんが辛そうな顔をしているので、私はどうにかして宥めてあげたいと思い、もう一度「大丈夫です」と言いながら、優弦さんの手を握りしめた。 
 一心に私を見つめている優弦さんをベッドから見上げると、いつも以上に色っぽく感じてしまい、心臓がドクンと跳ねる。
 グレーのスーツを見事に着こなしている優弦さんは、さっきからずっと切なげな表情をしている。
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