天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 カーッと赤面しながら問いかけてくる世莉が、愛らしくて仕方がない。
 そのまま何も言わずに見つめていると、世莉は「申し訳ございません……私あのまま……」と小さな声で謝ってきた。
 全部の動作が愛おしいと思いながらも、俺は世莉の頭を優しく撫でた。
「昨夜は無理をさせすぎたな。すまない」
「い、いえ……」
「世莉。もっと顔をよく見せて」
 恥ずかしがって布団の中に顔をうずめようとする世莉をそっと制して、俺は彼女の頬に手を添える。
 そしてそのまま、ちゅっと額にキスを落とした。
「ゆ、優弦さん……っ」
 怒ったような口調で名前を呼ぶ世莉が可愛くて、俺はにこやかな笑みを返す。
 このままずっと彼女のことだけを眺めていたい。
 世莉は額を手で押さえたまま恥ずかし気にしていたけれど、そっと俺に近寄ってきた。
「夢じゃなくて、よかったです……」
 俺の浴衣を掴んで、そんなことを呟く世莉に、また理性が飛んでしまいそうになる。
 俺はそっと世莉の体を抱き寄せて、胸の中にすっぽりと収めた。
 大人しく抱きしめられている世莉が大切すぎて……、怖くなる。
 夢じゃなくてよかった。俺も、目覚めた瞬間同じことを感じた。
 世莉に自分の思いを伝えていい日など、一生訪れないと思っていたから。
「夢じゃないよ」
「優弦さん……」
 今度は世莉の耳にキスをすると、彼女はくすぐったそうに体をくねらせる。
 そのまま「愛してる」と、もう何度目かの告白を囁いた。
 途端に世莉は大人しくなり、俺の背中に子供のように腕を回してきた。
 いつもは凛としている世莉にこんな一面があるだなんて……嬉しい誤算すぎて胸が苦しくなる。
「世莉。あんまり可愛い態度を取られると……危ない」
「そ、そうやって優弦さんが恥ずかしいことを言ってくるからですよ……」
「全部本当のことを言ってるだけだよ」
 体を離して世莉の顔を覗き込むと、彼女は確かに顔を真っ赤にしていた。
 こういう時は、自分は感情が顔に出づらいタイプでよかったと心底思う。
 世莉が愛おしいという感情が、体の中で暴れている。
 しかし……、俺にはまだ向き合わなければならないことがある。
 このまま幸せな時間を堪能していたかったけれど、俺は世莉の笑顔を守るためにもちゃんと話そうと決意した。
「家に戻る前に、君に話さなければならないことがある」
「え……?」
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