天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 何年もかけて準備をしてきたことを実行するまで、あともう少しなのだ。
 まだ世莉に詳細を話すことはできないけれど、俺は信じてほしい気持ちを込めて、目を逸らさずに世莉を見つめた。
「まだ詳細を伝えられずすまないが、相良家の今後を正すために俺がこれからする行動を、見守っていてほしい」
「優弦さん……」
「ひとつだけはっきり言えることは、俺は君を裏切ったりはしない……絶対に。だからその時まで、待っていてほしい」
 切実な思いでそう打ち明けると、世莉は目を丸くしながら俺のことをじっと見つめた。
 不安で鼓動が激しくなっていたけれど、世莉はふっと目の力を緩めて笑ってくれた。
「分かりました。待っています」
 咲き誇る花のようなその笑顔に、ますます惚れこんでしまいそうになる。
 俺は「ありがとう」と抱きしめながら囁いて、強くあることを胸に誓った。
 必ず、この腐った相良家を変えてみせる――。
 そのためにずっと、父親に対する怒りをどうにか抑え込んできたのだ。
 世莉を強く抱きしめながら、俺は計画実行までの決意を改めて固めたのだった。



 月が近くに感じる。
 優弦さんと結ばれてから、一週間が過ぎた。
 今日も優弦さんの帰りは遅く、朝に一度顔を合わせたきりだ。
 居間でばあやと一緒に夕食を食べ終えた私は、障子の隙間から見える月を見上げて、優弦さんのことを思っていた。
「世莉お嬢様、ようやくゆっくり夕食を食べれるようになれてよかったですね」
「かぶのあんかけが美味しかったわ。ばあやの料理は落ち着く」
「それはよかったです」
 私も着物の発注が溜まっていたこともあり、余韻に浸る暇もなく忙しい日々を送っていた。
 あの日の優弦さんを思い出すと、体の内側から熱が込み上げてくる。
 私を見つめる優しい瞳や、壊れ物を触るかのような手つき……かと思えば、キスは深く強引で、息をつく暇もなかった。
 鍛え上げられた体はただ美しく、彼が目を伏せる度に心臓が苦しくなった。
 私はただついていくのに必死で……、部分的にしか覚えられていないほど。
「世莉お嬢様、何かお考え事ですか?」
「あっ……、ごめんばあや。何か話しかけてた?」
「いいえ、珍しくお嬢様がぼうっとしてなさるので、不思議に思っていました」
 まずい。つい意識を遠くに飛ばしてしまっていた。
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