天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 真顔でそんなことを囁かれ、全身に熱が帯びていく。
 唇が触れただけで沸騰したように体が熱くなってしまう。
 優弦さんは意外と恥ずかしげもなく甘い言葉を言ってきたりするので、そのたびに私は少女のように戸惑ってしまうのだ。
 自分の恋愛経験が乏しいことを知られたくないから、必死に平静を装おうとしているのに、優弦さんはそこを軽く超えてくる。
「す、すみません。優弦さんの存在に全く気付いていなくて、私……」
「じゃあ、妻になれてよかったという言葉も、好きという言葉も、君の本心だと思っていいね?」
 優しく問いかけつつ迫って来る優弦さんに、思わず身じろぐ。
 一番聞かれて欲しくなかったことを、彼はしっかり聞いていた。
「世莉。俺はまだ夢のようなんだ。こうして君に触れられるのも……」
「あ……」
「だからもっと、嫌というほど君の本心を聞かせてほしい」
 頬を大きな手で包み込まれ、思わずピクッと体が跳ねる。
 その反応を見て火が付いたように、優弦さんは再び私に深いキスをしてきた。
「あっ……優弦さ……んっ」
「こんなに俺の心をかき乱してくるのは……、この世で世莉だけだ」
「か、かき乱してなんて……あっ」
 首から鎖骨にかけてキスをされ、思わず甘い声が漏れる。
 心をかき乱しているのは、どう考えたって優弦さんの方だ。
 優弦さんの視線、言葉、行動、全てに心臓が激しく動かされて、自分が自分じゃいられなくなる。
 彼の動作ひとつひとつから、有り余るほどの愛を感じる。
 まるで、今までの孤独をすべて埋め尽くしてくれるかのように……。
「ずっと一緒にいよう。世莉……」
「優弦さん……」
「全ての方がついたら……、番になってほしい」
 優弦さんと、番に……?
 番になったら、一生涯、お互いにしか欲情しなくなると聞いたけれど……。
 存在を確かめるように私を抱きしめてくる優弦さんの頭を、私はそっと撫でた。
 触れる度、愛おしいという感情が、波紋のように広がっていく。
 一緒にいたい。この人を生涯……絶対に手離したくない。
 そんな感情が、ふつふつと自分の中に溢れ出ていることに戸惑いを隠せない。
 こんなこと、他人に対して生まれて一度も思ったことは無いのに……。
「はい、その時は、番にしてください」
「世莉……」
 するりと出た言葉に、自分自身も驚いていた。
 だけど、迷いはなかった。
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