全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
***

「さすが郁海の部屋だな。洒落たインテリアが揃ってる」


 この日、私のマンションを訪れたのは魁だ。
 次は私が手料理をふるまう番なのに、いつになったら招待されるのかと、メッセージで何度か催促をされて。
 私の仕事が休みだった本日、食事を作っておくと伝えたところ、勤務を終えた魁がやってきた。

 うちには初めて来るから、道に迷ったりしないかと心配したものの、住所さえ聞ければたどり着けると言われた。
 事実そのとおりで、スマホの地図アプリは優秀だなとあらためて感心してしまう。


「はい、これ」


 なにか荷物を持っているとは気づいていたけれど、魁が満面の笑みを浮かべて私に渡したのは、真っ赤なバラの花束だった。
 

「どうしたの、これ……」

「郁海にプレゼントしたくて。情熱の赤! 俺の気持ち」


 へへ、と照れて笑う魁がかわいくて。
 ……いや、そんなほのぼのした感じではない。私を見つめる瞳が熱を帯びていて、恋をする男そのものだった。


「こんな花束もらったの、初めてだよ」

「え、マジで?」


 三十七年生きてきたけれど、まともな恋愛をしてこなかったなと、我が身を振り返った。
 二十五歳で婚約解消をしてからは特に、誰とも真剣に向き合っていなかった自覚はある。

 なので、私にこんな綺麗な花束を贈ってくれたのは魁が初めてだ。

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