全部欲しいのはワガママですか？～恋も仕事も結婚も～
　あのころを思い出しただけで、今でもゾワゾワと鳥肌が立ってくる。
　相手の家で話し合った日の光景が、一瞬頭の中でフラッシュバックして、自然と眉根が寄った。


「婚約したら、みんな一気に人が変わって怖かった。なにもかも全部勝手に決められたわ。結婚はふたりの問題なのに、少しでも私が口を挟むと、君はなにもできないんだから黙っていろと言われた」


　向こうの両親がとにかくひどかった。
　名家なりのしきたりがあるからと言いつつ、うちとは家柄が違うと常に格差ばかり口にしていた。

　どうしてこんな庶民の家の娘なんかと縁組をしたのかと後悔するように嘆かれたし、彼本人も、「親の言うとおりにしておけば間違いはない」とか「君のためだ」と両親の行動に納得していた。

　仕方なく迎合していたというよりも、彼が両親と同じ意見のように思えた。
　そういう両親に育てられたら価値観を植え付けられて当然かもしれない。


「なんだそれ」

「うちのお母さんが望んだ相手だったし、婚約したあとだったからね。けっこう悩んだよ。我慢していたけど限界が来て、両親に話したの。そしたらお父さんが激怒してね。そんなヤツと結婚しなくていい！って」


　父だけでなく、母もかなり憤慨していた。
　私たちにももちろんプライドはある。向こうが由緒正しい家柄だとしても、こちらがバカにされる謂(いわ)れはない。


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