全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「去年の夏に異動になって、なんとかやりがいを見つけようとがんばっていたんだけどね……。今は飼い殺し状態だからさ」

「デジタル推進部では……難しいですか? 部長職なのに……」

「実はやりたいことができたの」


 商品企画部やマーケティング部にいたころよりも、部長という肩書がある分、収入も増えたはずだ。
 だけど、彼女はそれを全部捨ててでもやりたいことがあると言う。


「フルーツサンドを売ろうと思ってる」

「それって、由華さんが作ってるやつですか?」

「そう。店舗を構えて売りたいなって前々から考えてたのよね。事業を始めるなんて無謀かなぁ? でも、チャレンジしてみたいんだ」


 テーブルの上に置かれた書類は、由華さんが事前に調べた資料や今後の事業計画書だった。
 私はそれを右手でパラパラとめくって目を通しつつ、彼女の話に真剣に耳を傾けた。


「美知留がね、不動産関係の知り合いがいるって言ってたから、空いてるテナントを紹介してもらえたらと思ってるの。狭くてもいいから、どこか良さそうな場所で」

「場所は重要ですよね」


 美知留ちゃんは職歴が多いので、各分野に顔が広い。とても頼りになりそうだ。

 私に説明を続ける由華さんの顔が嬉嬉(きき)としている。
 今後も今の㈱ALBコーポレーションで働き続けても、こんなに希望に満ちた表情にはなりえないだろう。

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