全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「『本部長の奥さんは二人目を妊娠中だから心配なんだろうな』って言ってるのを聞いちゃったのよ。……郁海は知ってた?」


 私は瞼を閉じ、フルフルと力なく首を横に振った。
 奥さんが妊娠しているなんて聞いていない。だいたい、駿二郎は奥さんの話はほとんどしないもの。

 ガツン、と後頭部をなにかで殴られたような衝撃が走った。
 
 奥さん自身も妊娠中で、子どもが高熱を出したとなれば、どれだけの不安に襲われたことか。
 きっと、まだかまだかと駿二郎の帰りを待っていたのだろう。


「ごめん! 仕事前に言わなきゃよかったよね。ほんとごめん!」

「いえ、由華さんはなにも悪くないです」


 言わせたのは私だ。
 どんなことでも受け止められる自信があったはずなのに、これはけっこうキツい。


「今夜、飲みに行く? 愚痴とか相談ならいくらでも聞くよ!」

「ありがとうございます。でも今日は実家に寄る約束をしてるので、また今度お願いします」


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