全部欲しいのはワガママですか？～恋も仕事も結婚も～
　低い声音で言い放つ母が、この上なく怖い。
　自分の親ながら、今の発言にはゾッとして一瞬で背筋が凍った。


「お母さん、慰謝料にも相場ってものがあるから。取りたいだけ取れるわけじゃないって」

「だとしても、他人の家庭を壊しておきながら、はした金で許してほしいだなんて虫がよすぎる！」


　母は世間一般の考えからはズレないタイプなので、これがサレ妻の正直な気持ちなのかもしれない。
　私も慰謝料の相場だとか、なにを真面目に言い返しているのだろう。必死になる必要はない。今のは想像の上での話なのだから。


「不倫って、どうして女ばかりが悪くなるんだろうね。男も同罪でしょうに」


　先ほどの母の発言だと、不倫をした夫側はお咎めなしということになる。
　怒りの矛先はすべて相手の女に向いている気がする。
　結局のところ、女の敵は女、なのだろうか。


「もちろん男も悪い。でもね、妻としては自分の家庭を守らなきゃいけないの。自分の夫にちょっかいを出す泥棒猫は憎いのよ」

　
　私の父は違うけれど、世の中には結婚をしていてもモテる男性が一定の割合で存在する。
　ちなみに駿二郎もその類(たぐい)だ。

　そういう人が女性から言い寄られるのは仕方ないとしても、誘いに応じなければいいだけだと思うのだけれど。
　妻や子どもを本当に愛していて、裏切りたくない気持ちがきちんとあるなら、跳ねのけるべきだ。

　なのに相手の女性ばかりに責任を押し付けるのは少々納得がいかない。
　そう思うのは……私がそっちの立場だからかもしれないが。

< 24 / 149 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop