全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「やっぱり私、結婚より仕事がいいや。裏切らないもん」

「ちょっと! またそんなこと言って!」


 仕事は真面目にがんばって努力した分、成果として返ってくるし達成感も大きい。
 私にはそっちのほうが向いていると思う。

 
「じゃあ、また来るね。ご飯ごちそうさまでした」


 しばらくして、玄関口で見送る両親に軽く手を振り、実家をあとにした。
 とりあえずお見合い写真を撮る件は、なんとなくうやむやになったので、それでいい。
 母のことだから、また言いだすかもしれないけれど。


 外は夜になっても気温はそんなに下がらず、生ぬるい空気が肌にまとわりついてくる。
 駅までの道のりを歩くあいだに汗がにじみそうだ。

 ふと、私が行く方向の街灯の下に人影が見えた。
 黒のTシャツにジーンズ姿の長身の男性だ。
 まっすぐ歩くのではなく、急に立ち止まってキョロキョロしてみたり、あきらかに様子がおかしい。

 実家は閑静な住宅街にあり、自治会がしっかりしているのもあって、街灯の数が多くて夜も比較的明るい。
 だからこそ、変な人がいると目立つ。

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