全部欲しいのはワガママですか？～恋も仕事も結婚も～
　私はいったん歩みを止めて、バッグの中からスマホを取り出した。
　メールをチェックするような感じで自然にスマホをいじってはいるが、もちろんそれはフェイクだ。

　さて、どうしよう。あの男のそばを通り過ぎないと駅には行けない。

　走って逃げるような行動を取れば、相手を刺激して背後から追いかけられる可能性もある。
　反対方向に駆け出しても同じだろう。そうなると全速力で走っても捕まるに決まっている。
　
　電話で誰かと話しているフリをしながら、そっとすれ違おうか。
　それならば、電話の相手に呼び戻されたという設定で反対方向に回り道をするのがいいのかもしれない。

　いや、どちらにせよ、あとをつけられて襲われたら終わりだ。
　こんなことなら防犯グッズを買って持ち歩いていればよかった。

　そうだ、父にここまで来てもらおう。
　夕飯のときに三人ともビールを飲んだので、車で送ってもらうのは無理だとしても、駅まで一緒に行ってもらえばいい。
　父が来るまでにあの男がおかしな行動を取れば、そのときは警察に通報しよう。

　脳内であれこれシミュレーションをしているあいだに、男との距離が微妙に近づいた気がする。
　怖いので、走って逃げたい衝動にかられたが、それはダメだとなんとか堪えた。

< 26 / 149 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop