全部欲しいのはワガママですか？～恋も仕事も結婚も～
　私が大学四年のとき、母の同級生で友人の女性から、子どもに勉強を教えてもらえないかと頼まれたことがあった。
　今の会社から内定をもらったあとで卒業まで時間があったし、家庭教師を引き受けたのだけれど。

　その相手が、当時中学一年生で十二歳だった魁だ。

　家庭教師をした経験はほかにはないし、情報も合致する。
　でも……人間は十五年も経つとここまで変わるものだろうか。


「郁海は全然変わらないな。すぐわかった」

「魁はデカくなりすぎでしょ。まったく別人じゃないの」

「ははは」


　あのころの魁は、今の私の身長とあまり変わらなくて。
　一センチだけ自分のほうが高いとか、うれしそうにしていたのを思い出した。

　それが十五年経った今現在、目の前に立つ魁は私より二十センチ以上高いではないか。
　身長だけではない。私が知っている魁は声変わりの最中だったから、少しかすれたような、大人と子どもの中間の声だった。
　だけど今は見事なバリトンボイスだ。

　声や胸板や骨格、脚の長さまで、なにもかも違うし、なかなかのイケメンに育っている。
　私の脳が混乱するのも無理はない。

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