全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「夫に女性がいるのは、二年前から気づいていたんです。見て見ぬふりをしてきました」

「……そうだったんですか。申し訳ありません」


 今の彼女の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
 もうとっくに私の存在に気づいていたのに、我慢し続けていたなんて。
 私はそのあいだ、ずっと彼女を傷つけてきたのだ。そう考えたら心が痛い。


「それは本部長もご存知なんですか?」

「いえ。夫にはなにも話していません」


 駿二郎は泳がされていたのだろうか?
 いや、それにしては期間が長すぎるし、ほのかさんはそんな狡猾(こうかつ)な性格ではなさそう。


「実は私、長男を出産してから子どもができなかったんです。いわゆる“二人目不妊”で。タイミング法とか体について勉強をして、夫にも協力してもらいました」

「不妊治療……されていたんですか」

「そういうのがあったから、夫も仕事と家庭の両方でストレスが溜まってるんだろうと思って、不倫には目をつぶっていたんです」


 気づかないふりをして目を背けていた、というよりも、彼女自身がなにか負い目を感じているふうに聞こえた。

 不妊治療は本来、夫婦ふたりで取り組むべきもので、妻だけがストレスを背負い込むのは違うのだけれど。
 夫が消極的だったり、妻があれこれ気を使って疲労困憊するというのは、よくある話だ。

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