全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「でも、やっと妊娠できました。婦人科に通って薬を飲んだり注射をしても毎月ダメだったけど、ようやく二人目を授かれて……」

「おめでとうございます」


 私からどんな言葉をかけられても憎らしいだろう。
 でも、赤ちゃんが出来たのだから、今は祝福の言葉しか思い浮かばない。


「これは自慢でもなんでもないんですけど、夫は女性にモテるんですよ。そういう人に嫁いだ私はいつもいつも不安で……。もっと家庭に目を向けてもらうために、二人目が欲しかったのもあるんです。一番大事なのは妻と子どもなんだって、彼に強く意識してほしくて」

「……」

「正直、私の妊娠がわかったのをきっかけに不倫をやめてくれると思っていました。でも違った。いつまで続ける気なんだろう? もしかしたら私と子どものほうを捨てる気かも……ってネガティブな考えが浮かんできてしまって」


 かける言葉が見つからない中、私はフルフルと小さく首を横に振った。
 ほのかさんは私と性格が少し似ている気がする。私でもきっと、彼女と同じ思考に陥るだろうと、気持ちがわかってしまった。


「私、なにも存じ上げなくて……。奥様の妊娠を知ったのも、社内で噂を聞いたからなんです。すみません」

「夫はあなたに話していなかったんですね」

「私が言うのもおこがましいのですが、本部長は奥様とお子さんを一番大切に思われています。本当です」


 真剣に言葉を絞り出した私を見て、ほのかさんは少しだけ緊張の糸が解けたようだった。
 口元に苦笑いの笑みをたたえている。

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