離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「岩木、どうして琴子がここに」
「私がスマホを忘れてしまったので、届けてくださったんですよ。ね、琴子さん」
 
 岩木さんの言葉を聞いて、忍さんの視線がこちらに向いた。
 
「お仕事の邪魔をしてすみません」と慌てて頭を下げる。
 
「スマホを渡してすぐに帰ろうと思ったんですけど……」
「そんな。奥様にわざわざ来ていただいたのに、お茶も出さずに帰すなんて失礼なことできませんよ。ですよね? 副社長」
 
 岩木さんに妙に迫力のある笑顔を向けられた忍さんは、「あ、あぁ……」と戸惑いながらもうなずいた。
 
「よかった。では今お飲み物を用意しますので、おふたりは執務室でお話でも」
「いや、執務室はまずい」
 
 岩木さんの提案に、忍さんは表情を変えた。
 
「どうしてですか?」
「どうしてって、琴子をあそこに入れるわけにはいかないだろ……!」
 
 そのふたりのやりとりを見て、やっぱり私は歓迎されていないんだと実感する。
 
 仕事中の忍さんの姿をひと目見たいという欲望に負けてやって来てしまったけど、やっぱりエントランスで帰ればよかった。
 
 好きな人に拒絶され、胸がずきんと痛んだ。
 
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