離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「料理ももちろんだが、素晴らしいのは君自身だ」
「え?」
 
 琴子は食器を洗う手を止め、視線を上げた。
 
「私自身?」
「あぁ。君の細やかな気遣いや優しい笑顔がアハメッドたちの心を開いてくれた。大使夫人が教えてくれた料理のおかげじゃない。君がここにいてくれたからだ。本当にありがとう」
 
 素直な気持ちを口にすると、琴子が驚いたように目を見張った。
 
 大きな瞳が潤み涙目になっていく。
 
 琴子は今にも泣きだしそうな表情で俺を見ていた。
 
「どうした。俺はなにか変なことを言ったか?」
 
 不安になってたずねる。
 
 俺から感謝されてもうれしくなかっただろうか。
 
 それとも、言葉ではなく金銭や物で気持ちを表すべきだっただろうか。
 
 焦っていると、琴子は「違うんです」と恥ずかしそうに首を横に振った。
 
「忍さんのお役に立てたことがうれしくて。ずっと足を引っ張らないようにと緊張していたので、ほっとして気が抜けちゃいました」
 
 涙声でそう言った。すん、と鼻をすする仕草がかわいくて抱きしめたくなる。
 
「すみません。こんなことで泣いてしまって」
 
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