離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 頬は熱いし視界は潤んでいるし呼吸は乱れているし、情けないくらい動揺している私とは対照的に、忍さんは涼しい顔でこちらを見下ろす。
 
「機嫌は直ったか?」
 
 ちょっと意地悪な問いかけに、私は涙目で忍さんを見上げ首を横に振った。
 
「お願い。……ちゃんと、口にして」
 
 こんなことを頼むなんて、まるで駄々をこねる子供みたいだ。
 
 あきれられるに決まってる。

 けれど私の予想は外れ、忍さんの視線が熱をはらんだ。
 
 その色っぽい表情で見つめられるだけで、背筋が甘くしびれた。
 
 長い指が私のあごをすくい上げた。
 
 緊張のあまりぎゅっと肩に力を入れ身構えてしまう。
 
 固く目をつぶっていると、一瞬だけ唇に温かさを感じた。
 
 あっけないほど短い時間だった。
 
 もしかして、これで終わり?
 
 おずおずと目を開けると、まつげが触れそうなほど近くで忍さんが私を見つめていた。
 
「もっとしてほしいか?」
 
 甘い誘惑に、私はうなずく。
 
「じゃあ、肩から力を抜いて口を開いて」
 
 素直にあーん、と口を開けると、忍さんが破顔した。
 
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