再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

「国家試験に合格したら、そのまま大学病院に残れることになったんだ」
「え!よかった」

「祥が大学を卒業したら、一緒に暮らそう。祥も京都のホテルに就職するんだろ?」
「うん。実は一番働きたいホテルが京都にあるの」

祥がホテルで働きたいと思うきっかけになったのは、『京都 泉ホテル』だ。
父がまだ大学病院に勤務していた頃、京都に出張する父についていったことがある。
その時に滞在したホテルが『京都 泉ホテル』なのだ。

小さな祥にはホテルのエントランスがお城のように見えた。
童話の挿絵に書かれているような制服を着たベルボーイ、襟とカフスの白さが際立つ黒いワンピースを着た女性スタッフ。

祥はホテルのラウンジでジュースを飲みながら、スタッフが動き回る様子を夢中で眺めていた。

泉ホテルに滞在中、父は終始機嫌がよく、母もとても優しかった。
祥にとって泉ホテルは、数少ない両親との幸せな時間の象徴なのだ。

泉ホテルの制服はあの時のまま変わっていない。大きな白い襟とカフスのついた黒のワンピース。あの制服を着て、お客様の幸せな旅の思い出をサポートするのが祥の夢だ。

「私、がんばるよ。『京都 泉ホテル』に就職して、健斗と一緒に暮らせるように」

そう言う祥を健斗は優しく抱きしめてくれた。

< 21 / 135 >

この作品をシェア

pagetop