一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


(山根さんも私を信じてくれていないんだ)

きっと別荘での出来事を、匡が誤解したまま山根に話したのだろう。
だからいつもと態度が違っているとしか思えない。
自分と翔は別荘を見に行っただけなのに、山根からも見放された気がした。
匡や山根から存在を否定されたようで、紗羽は情けなくなってきた。

「帰ります……」

会社を出ると、近くの公園の緑が目に染みる。涙が溢れそうになったのだ。
とぼとぼと駅まで歩いて電車に乗った。
車両に乗ってからも足元ばかり見ていたら、近くで話している声の中にモリスエという言葉が聞こえたので驚いた。
どうやら女性客たちが中吊り広告の週刊誌の記事について話しているようだ。

「凄いわね。社長が女子高校生に手を出したってこと?」
「援助交際なんじゃない? うちの娘だったら叱り飛ばしているわよ」
「兄弟を手玉にとるなんて、まだ若いのに魔性の女ってことかしら」

恐る恐る、紗羽も広告に目をやった。

小さな扱いだったが、モリスエエレクトロニクス社長兄弟の記事だ。
匡は未成年に手を出してしまい、責任を取って結婚したことになっている。
おまけにその妻が弟と軽井沢で密会した写真まで載っているらしい。

(酷い! 誰がこんなこと……)

紗羽は‶魔性の女”で、兄弟を弄ぶ悪女という扱いだ。
たかが週刊誌の記事とはいえ、事実からはかけ離れたスキャンダルだった。



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