一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
声をかけたとたん、その少女がふらついた。
「あっ!」
両手を伸ばしてなんとか華奢な体を受け止めた。
「君!」
匡の腕の中で意識を失った少女は、閉じた瞼からツーっと涙を流した。
ずっと気を張り詰めていたのだろう。よく頑張ったと抱きしめてやりたかった。
倒れた彼女を動かしていいものか迷っていたら、すぐに青年が駆け寄ってきた。
「紗羽さん!」
彼がそっと声をかけるが反応はない。脈をとる手際のよさから医者と思われた。
「動かしてよかったら、運ぼう」
「ありがとうございます。ですが、私が」
青年医師の申し出を断って、匡は少女を横向きに抱き上げた。
なんとなく、彼女を他の男に触られたくなかったのだ。
「こちらへ……」
青年医師の案内に従って匡は歩いた。
少女の余りの軽さに内心では驚きながらも、無表情を貫いた。
医師の指示で、控室のソファーに彼女を下ろす。
長い髪が顔にかかるのをそっと払ってやったが、まだ意識は戻らない。
「貧血でしょう。ずっと寝ていなかったので」
医師が血圧を測り出した。
彼女の容態が気になったが、匡はその場からすぐに立ち去った。
部外者の自分がいたら、かえって親族や会社関係者に気をつかわせると考えたのだ。
(紗羽と言ったか……)
自分より、ひと回りは年下だろう。
儚げな少女の面影は、匡の心の奥深くへ染みこんでいった。